◇留学時に住民票を抜くべきか残すべきか
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「住民票を抜くべきかどうか・・・」
留学の前に悩むことの多いポイントの一つです。海外に長期間滞在する場合は税法上の非居住者となる場合がありますが、明確な指針が(特に留学に関しては)あるわけではありません。今回は留学時の住民票の取り扱いについて解説します。(なお、この内容は個人的見解であり、実際の運用については専門家に確認下さい。生じた不利益について、筆者は一切責任を負いません。)
1. 法令上の取り扱い
留学関係の記事には、長期間の海外移住をする場合は住民票を抜くことが推奨されていると記載されているものもありますが、実際は「抜いても抜かなくてもよい」 です。(住民票を抜いた人のことを「非居住者」と呼びます。)
所得税法他の定めるところでは、
①外国にある事務所に勤務する目的で出国したもの
②2年以上外国に滞在する目的で出国したもの
③出国後、海外滞在期間が2年を超えたもの
については所得税法上の「非居住者」と推定する。となっています。
うらを返せば、税法上の疑義が生じない以上はどちらでもよいということです。
今日の税法は、サラリーマンの海外転勤については明確に定められているのですが、留学に関してはグレーなところが多い です(例えば海外転出時の年末調整に関する規定など)。①の規定からサラリーマンの海外転勤の場合はまず間違いなく住民票を抜くことになりますが、海外留学(特に研究留学)の場合は、短期留学を除き、最初から期間が決まっていることの方が珍しいですから、住民票を抜かなくても問題ありません。
もう一つの観点は日米租税条約です。研究留学生の給与について2年間免税が規定されていますが、条文には他方の国の居住者であることが要件になっています。もし日本国が留学生に対して住民票を抜くように期待しているとすると、この条文と矛盾が生じます。
以上より、「住民票は抜いても抜かなくても問題なし。留学してみて、結果、2年以上となった場合は抜くことを考慮する。」 という態度でいいと思います。
2. 住民票を抜くメリット
①住民税がなくなる
住民票を抜くと、住民税の支払い義務がなくなります。 住民税は前年分が今年に課税されるので、非居住者になったから支払いを免れるものではないですが、翌年からは無税です。1/1に住民票がある人に対して課税されるので、年の後半になるほど住民票を抜くメリットが増えます。
②健康保険料と年金の支払い義務がなくなる
健康保険料と年金は徴収されなくなります。(一括で支払っている場合は還付されます。)
年金は支払わなくても合算対象期間(カラ期間)になりますが、支払っていない分の支給金額は減ります。
③株の売却が有利になる。
株の売却益に対して住民税がかかりません。しかも基礎控除38万円を使えるので、売却益に対する税金が少なくてすみます。損失の場合は損失繰越ができないので、株で大きく利益が出ている人にはメリット大 です。
3. 住民票を抜くデメリット
①住宅ローン減税がなくなる
一番大きなデメリットは、住宅ローン減税の対象でなくなることです。留学期間のみならず、残っている期間全てが無効になります。会社命令により海外赴任となる人は、非居住者となる前に住宅ローン減税の再適用の申請をしておくことにより、帰国後に残年数-海外居住年数分が再適用されますが、留学の場合はこの規定の適用は困難と思われます。
②児童手当がなくなる
子供がいる場合は児童手当がなくなります。(子どもの住民票を残す場合は当然支給されます。)
③投資できなくなる
株やFx等の投資はできなくなります。多くの場合、口座解約が必要です。SBI証券、野村証券、SMBC日興証券については非居住者に対して口座の維持を認めています。(売却のみ可能。買付は不可。)
NISAについては、売却するか、上記3社の場合は解約して一般講口座へ移管することになります。
IDECOの拠出が停止します。(運用は可能。)
④日本の所得に対する税金が高くなる
日本源泉の給与所得(例えば一時帰国中にバイトしたのとき)について、20.42%の源泉徴収となります。基礎控除すら使えません。(この所得については確定申告できません。雇用主が徴収額を間違えた場合は雇用主の責任となります。)逆に、これでもかと稼げる人は有利になる可能性があります。
⑤ローン、クレジットカード、銀行口座開設、不動産契約、車の購入や売却がしにくくなる
非居住者は印鑑証明がとれないので、日本における経済的活動に制限が出てくることがあります。住民票を抜く前に終わらせておくか、予め印鑑証明を取っておきましょう。
4. 住民票を抜く?抜かない?どちらがトクか?
住宅ローン減税の有無で状況が大きく変わります。住宅を賃貸に出すか、空き家にしておくかによっても変わります。
①住宅ローン減税がある人
住民票を抜くと、住宅ローン減税の残年数分を全て失います。かなり大きな額になることがありますのでよくシュミレーションする事が必要です。
ケーススタディ(健康保険料は東京都中央区の国民健康保険料を用いて試算)
4人家族(配偶者(収入なし)と小学生以下の子ども2人)
2018年収 800万、2019年収 200万 給与所得のみ
健康保険料年額 60万 (2019年は住民票を抜いた場合15万、抜かない場合60万)
年金年額(2人分) 38万 (2019年は住民票を抜いた場合9万5千円、抜かない場合38万)
住宅ローン減税 30万円の減税が2018年時点で7年 留学中、賃貸に出さない
留学時期と期間 2019年4/1から2年間
2018年分の税金
所得税 13万円 (住宅ローン減税適用後)
住民税 44万円
2019年分の税金
○住民票を抜いた場合
健康保険料 15万円
年金 95,000円
所得税 11,000
住民税 440,000
○住民票を抜かない場合
健康保険料 55万円
年金 38万円
所得税 0
住民税 140,000 (住宅ローン減税適用後)
2020年分の税金
○住民票を抜いた場合
0円
○住民票を抜かない場合
健康保険料 165,000円
年金 38万円
所得税 0
住民税 ほとんど0
2021年以降
○住民票を抜いた場合
住宅ローン減税なし
○住民票を抜かない場合
住宅ローン減税 30万x4年=120万適用可能
2019年以降の税負担をまとめると、
住民票を抜いた場合の支払い 696,000円
住民票を抜かない場合の支払い 415,000円(住宅ローン減税120万円減税後)
年金については、支払い分が将来返ってくると仮定すると、
住民票を抜いた場合 601,000円
住民票を抜かない場合 -345,000円
となり、留学中の支出は多くなりますが、将来的には住民票を抜いた場合よりも100万円ほどおトクになります。
このシュミレーションは住宅ローン減税の額と残年数、出国前と帰国後の年収に大きく左右されます。また、年の後半に出国する人は住民税免税のメリットが大きくなります。例えば12/1に出国するとすると、2019年から住民税負担がなくなるので、その差は55万円ほどまで縮まります。
注意点として、留学中に自宅を賃貸に出すことを検討する人が多いと思いますが、一度賃貸に出すと、例え居住者でも住宅ローン減税を全て失います。 (一般論としては、転任命令、病気療養等の理由書を税務署に提出すれば、再居住後の再適用も可能ですが、留学は理由にならないと思われます。)賃貸に出す場合は、住民票を抜いた方が圧倒的にオトクです。
②住宅ローン減税が無い人
一時帰国中にバイトをたくさんする、投資を続けたい、等の特別な理由がない限りは住民票を抜くの一択 でしょう。
以上から、留学時は住民票を抜いた方が有利になるケースが多い と思われます。ただし、以前の記事 で書いたように、日米租税条約での2年免税について見直しがあればこの限りではありません。
こうしてみると、住民税、健康保険料、年金が大きな支出となります。対策としては、
①十分な貯金を用意すること。
②受け入れ先と交渉して12月に出国できるようにすること。
③(健康保険料について)任意継続ができるなら利用する、国民健康保険であれば12月中に保険料の安い自治体に住民票を移しておく(実家などのある自治体の保険料を調べておくと良いと思います。東京都大島町は東京都中央区の半分程度になります。)。
④(自分または家族の一部について住民票を残す場合)健康保険料や年金の支払い猶予・減額を申し出る。
といった対策をしておけば、留学初年度の支出をカットできると思います。アメリカに家族で留学する場合、留学準備には数百万は必要なので前年から対策しておきましょう。読者の方で、「他にこのような対策はどうか?」といった質問や、「自分はこのような対策をした」といった体験談があれば是非コメントください。
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