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いわゆる「国の借金」について [留学記]

◇いわゆる「国の借金」について







ちょっと固い話になります。


つい先日、財務省が発表したデータによると、「国の借金」が過去最大を更新したとのことです。

国の借金 過去最大に 国民1人当たり約860万円
国の借金の総額は、昨年度末で1087兆円余りとなり、過去最大を更新しました。国民1人当たりおよそ860万円の借金を抱えている計算となります。(以下略)NHKより。

実はアメリカでもアメリカ政府の債務について同様の報道が相次いでいます。

U.S. national debt exceeds $21 trillion for first time
By Robert Schroeder
Published: Mar 16, 2018 4:54 p.m. ET
The national debt has exceeded $21 trillion for the first time, according to the U.S. government. It had hit $20 trillion in September. President Donald Trump signed a debt-limit suspension in February, allowing unlimited borrowing until March 1, 2019. (以下略)Market Watchより。

(アメリカ合衆国の政府債務が21兆ドルを初めて超えた・・・)


NHKがいう「国の借金」とは政府債務の事ですが、国の規模が違えば当然、債務の量も違ってくるので、通常国家間の比較をする際は「政府債務/GDP」の指標を用いて比較します。財務省によれば日本はGDP比200%を超え、世界最悪規模の借金を抱えていると説明しています。

政府債務国際比較.PNG財務省より

一方アメリカは、80年代から財政赤字と貿易赤字による「双子の赤字」が問題視され、最近ではこれに「家計の赤字」も加わり「三つ子の赤字」と呼ばれています。普通に考えるとアメリカのほうが債務は大きくなるはずです。調べてみると実に面白い事実が分かりました。


GDPの計算方法は各国でほぼ統一され(中国はいい加減と言われている)、誤差は少ないと思われますが、政府債務の計算方法は各国で何を債務に入れ、何を除外するか基準が異なるということが分かりました(ソース1ソース2ソース3)。IMFに指摘されて政府債務が4倍になった韓国が好例です。


実際にアメリカ政府のバランスシートと日本政府のバランスシートを比べてみようと思います。


アメリカは債務を2種類に分類しています。Securities held by goverment accountとSecurities held by publicです。債権を一般が保有しているのか、政府が保有しているのかという違いです。内訳をみると、政府保有債権は社会保障関連の項目で成り立っています。一般保有債権の内訳ですが、Billsとは政府短期証券とほぼ同一、NotesとBondsは普通国債に相当し、短期か長期かの違いのようです。

Holders_of_the_National_Debt_of_the_United_States.gifwikipedia

日本の債務と比べてみます。

政府債務.gif財務省HPより


政府短期証券は"Bills"、普通国債は"NotesとBonds”、公的年金預り金等と退職給付引当金等、そのほかの負債は"Securities held by government account"に相当すると考えられます。アメリカになくて日本にある項目がいくつかあります。財投債です。また、日本の普通国債には建設国債が含まれています。建設国債の残高は約220兆、そのほかが一般的に言われる普通国債にあたります。

建設国債.png財務省より

財投債は、リニアや高速道路など建設時に行われる財政投融資の際に発行される債権で、当然、我々の通行料や運賃などの利用料から返済が行われる債権です。政府と関係ないところが借主ですし、長年黒字が続いていますまるまる債務に入れるのはおかしいと思われます。


建設国債はアメリカにはなく、政府によるインフラ投資は一般的な国債により行われます。建設国債に相当する負債はアメリカも負債として計上していると思われます。ドイツでは国民の負債とされ、政府債務には計上されていないそうです(ソース3)。日本には自動車税やガソリン税など多額の受益者税が存在しますので、ドイツ式でもいいと思われます。


余談ですが、先日、アメリカに高速鉄道を売り込みに来ているJR東海の方とお話ししたのですが、アメリカ政府はインフラ投資には極めて消極的だそうです。受注したダラス~ヒューストンの高速鉄道も民間企業が主体だそうですし、道を歩けば道路はガタガタです。建設国債や財投債といったシステムはアメリカにはないようです。


次に公的年金預り金ですが、これは国民が毎月の年金掛け金をプールしているもので、年金制度上必ず発生するものです。政府がそのお金を保有しています。国民から預かっている以上、「負債」なのかもしれませんが、「赤字」に含めるのはどうかと思われます。なぜなら年金掛け金による収入と年金支給による支出が確定しており、制度上のフローが存在するからです。これはアメリカのSecurities held by goverment accountにも同様のことが言えます。例えばFederal old-age and survivors insurance trust fundはSocial security taxから収入が国民に支出されます。フローが確定しており、支払いに備えた一時的なストックにすぎません。±ゼロであり、負債に算入するということはあり得ないという意見もあります。


最後に、FRBあるいは日銀といった中央銀行との関係です。中央銀行は政府から国債を購入したり、市場からCP等債権を購入したりして紙幣を発行します。世の中に出回る紙幣の量が多くなればインフレになるし、少なくなればデフレになります。リーマンショックの後、FRBは大きく資産を増やし、市中に紙幣を供給しました。(「ヘリコプターから紙幣をばら撒く」と言われました。)

FRB資産.PNGkanekashi.comより

FRBに遅れること、日銀もアベノミクスで大きく資産を増やし、市中に紙幣を供給しようとしています。

日銀資産.jpg東京新聞より

FRBと日銀には大きな違いがあります。FRBはもともと米国債保有が500兆円程度で、資産拡大時においても国債は増やしていません。これはFRBが一民間企業であることと無関係ではないと思います。半面、日銀は国営です。資産の原資は国債がメインになります。日銀はその資産を増やすにあたって国債を多く購入したため、国債保有額が400兆円程度です。日銀は国営企業ですので、国債による利息を国に返還しています。韓国の例では国営企業の決算は連結するのが正解ですので、現実には政府債務(いわゆる償還義務のある「赤字国債」)はもっと少なくなるものと思われます。


会計制度のことは専門科に任せるとして、理系の立場から言うと、条件が違うものは比べられない(債務算出の方法が国ごとに異なるのに比較できない)ということに尽きます。しかし、少なくとも、国民が受け取る側であるべき年金積立分や政府の借金ではない財投債が算入されている時点で、国民一人当たり860万円は間違いです!財務省官僚の皆さんは今、非常に忙しいと思いますが、政府債務の算出方法について基準を定めてから議論していただきたいと思います。そして、何でもかんでも負債に組み込んで、「一人当たり~万円の借金」といった表現は改めていただきたいと思います。



 

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